絵本とリテラシー2 「絵と文の意味のズレ」

早川知江

前回のエッセイでは、「絵の中のいたずら」と題して、絵本の絵に、本文で説明されないものがこっそり描き込まれている、などの遊びがあることを紹介しました。そうした遊びを見つけ出す力も、絵本を楽しむためのリテラシーの一つだと思うのです。


今回は、絵本の面白さを読み解くもう一つのカギとして、「絵と文の意味のズレ」という現象を紹介したいと思います。

 

私が、このことに初めて気づくきっかけとなったのが、写真にあるOliviaという作品です。これは、おしゃまでやんちゃな豚の女の子Oliviaを中心に、その家族の日常をユーモラスに描いた作品で、日本でも、『オリビア』というタイトルで、谷川俊太郎さんの訳で出版されており、続編が何冊も出る人気シリーズとなっています。

 

真っ赤な服を着た可愛い子豚の表紙に惹かれ、本屋で何気なく手に取ったこの絵本は、まさに「目からうろこ」という感じで、私の絵本というジャンルへの認識を変えてくれました。というのも、今まで絵本に対しては、「簡単なお話に、それを説明するような絵が何枚かついた子ども用の本」くらいの認識しかなかった私に、まったく新しい表現の可能性を見せてくれたからです。その可能性とは、「絵本の絵は、単に文と同じ意味を視覚的に繰り返しているだけではない。絵と文は互いに独立して意味をつくりだし、それが合わさることで、片方だけでは生みだせない意味や効果を生むことができる」ということ。

 

分かりやすいのは、文と絵の間に意図的なズレがある場合です。例えばOliviaの最初のページ。出だしの文は、This is Olivia. She is good at lots of things.(これがオリビア。彼女はいろんなことが上手なの)というもの。そこに添えられた絵は、Oliviaが手に楽譜を持ち、大きく口を開け、どうやら歌をうたっているらしい場面です。でもその楽譜のタイトルは、よく見ると、40 very loud songs(40曲のとってもうるさい歌)となっています。つまり、文では、「いろんなことが上手」と言っているのに、絵では、「周りからするとうるさいだけ」という意味を伝えているのです。このズレが、「上手と思ってるのは本人だけなんだけどね」という言外の意味を生み出し、小生意気ではた迷惑な、でも憎めないOliviaの性格を見事に表しています。

 

こうした例は、Oliviaの中、そしてOliviaシリーズ中、至るところに見ることができます。ほかにも、文では書かれていない内容を絵が補足したり、文の意味を絵がものすごく大げさにすることで笑いをとったりするなど、絵本の中の文と絵は、素晴らしいチームワークで協力し合い、豊かな意味を生み出しています。これは、文だけで書かれた小説には不可能な意味のしかたです。

 

「子ども騙し」と思い込んでいた絵本の中に、こんなに興味深い世界を見つけるとは思ってもいませんでした。大人になって絵本からはすっかり遠ざかっていたという方、ぜひもういちど、ゆっくり絵本を読んでみませんか?今まで気づかなかった発見があるかもしれません。