絵本とリテラシー3 「絵本の中のサイドストーリー」

早川知江

前回のエッセイでは、「絵と文の意味のズレ」と題して、絵本の絵は、必ずしも文と同じ内容を繰り返すだけでなく、文にない内容を付け足したり、文の意味を大げさにしたり、時にはわざと逆の意味を表したりすることを紹介しました。文と絵は、そうやって意味を持ち寄ることで、全体でより豊かな世界をつくりあげているのですね。

 

絵が文にない内容を付け足すといえば、絵本によく見られる面白い仕掛けについて紹介したいと思います。それは、文で語られる「ストーリー」の他に、絵本の中には、絵だけで語られる「サイドストーリー」がたくさん隠れているということ。この場合のサイドストーリーとは、メインの物語とは別の、脇役が活躍する「もう一つのオマケの物語」のことです。

 

ちょっと例を見てみましょう。ここに、Helen Cooper文・絵のPumpkin Soupという絵本があります。ネコ・リス・アヒルの三人組が主役の、とびきりおいしそうなスープが登場する絵本です。メインとなるストーリーは、庭に生えているカボチャを使って作るカボチャスープをめぐって、この三人が協力したり、喧嘩したり、大騒動の末にまた仲直りしたり…というものです。そのストーリーはもちろん文によって語られ、同時に、可愛らしい絵でも説明されます。

 

でも、絵の中に出てくるのは、実はこの三人組だけではありません。目を凝らしてよーく見ると、ほとんどすべてのページの片隅に、二匹の小さな虫が描き込まれています。カブト虫のようなテントウ虫のような、ヘンテコな形をしたノッポとふとっちょの二人連れ。この二人連れについて、文は紹介も説明もしないので、当然名前も分かりません。でも、夕暮れには庭のカボチャの上で二人仲良く夕涼みを楽しみ、ネコが探し物をする時には、傘の柄で「あっち」と言わんばかりに指示を送り、小さなアヒルが迷子になれば、一緒になって心配してくれます。そして、誰かが楽器を奏でれば、部屋の隅で手を取り合ってダンスを始めます。

 

明らかに、彼らは彼らなりの生活を送り、彼らなりの「もう一つの物語」を紡いでいるのです。そして、その物語は、絵を注意深く見た人だけが覗けるようになっているのです。

 

子どもは、こんな隠れたストーリーが大好き。ネコとリスとアヒルの物語を楽しみながらも、同時に、ページをめくるたびに、「さっきの虫さん達、またいるかな?」と期待に満ちた目で探して、彼らの物語を追うことも忘れません。文にばかり気を取られてしまう(というか、ストーリーはいつでも文で語られるものだと思い込んでいる)大人は、もしかして、「ちゃんと」絵本を読んだつもりでも、もう一つの小さな物語を見落としているかもしれませんね。

 

さてこの二人連れ。Pumpkin Soupの中では、メインのストーリーと「付かず離れず」な感じでささやかなサイドストーリーを繰り広げるだけでしたが、この作品が人気を得て、シリーズの2作目、3作目が世に出されるようになると、どんどん大胆に活躍の場を広げていきます。シリーズ3作目Delicious!では、なんと仲間を呼び集めて、街にオリジナルのスープ店を開店させてしまいますよ!

 

どうぞ本屋さんを覗いて、見ているだけでお腹の空く鮮やかな絵とともに、この小さな登場人物達の活躍を楽しんでみてください。