「プロジェクト3」インタビュー記事公開

「プロジェクト3」では、社会と芸術をつなぐ活動をしている人に学生たちがインタビューをおこない、社会と芸術の繋がりについて理解を深める課題を設定しています。

 

2024年度は、名古屋・新栄で活動を続け、さまざまな人が集う場所「のわ」「パルル」を運営する新見永治さんにインタビューを行いました。事前リサーチから、質問事項を考え、インタビュアーや記録撮影などもすべて学生自身が実施しました。

インタビューからは、「芸術と社会」というテーマで、どのように実際の活動が展開されているのか、芸術が社会に働きかけているのか、あるいは社会と芸術はどのような関係性が期待されるのか、といったことを考えるヒントを得る機会となりました。

以下に、受講学生によるインタビュー内容のまとめを紹介します。

 

※( )内は記事執筆・編集者名、斜体の発言者は新見さん

 


 インタビュアー:青井、春田

 記録:田島、片岡、鈴木

 記録撮影:腰本、梛野

 基本情報整理:浦野

 場所:パルル

 実施日:2024年7月25日(木)16:00〜18:00

 担当教員:服部浩之(客員教授)、茶谷薫、酒井健宏、松村淳子


新見永治(しんみえいじ)

1957年に京都市に生まれ、4歳で名古屋に移りました。趣味は音楽を聴くこと。

新見さんの行動力の源(モチベーション)は新しいものが好きということや、それに対する好奇心が大きいと言います。新見さんが生きていくことで大切にしていることは、人と人のつながり。きっかけは、名古屋に引っ越したことによるカルチャーショックや、言葉の違いでした。こうした体験の延長線上に、人やコミュニケーションがあるのだと考えるようになりました。

新見さんがパルルの運営で目指していたのは、1990年代に訪れたイギリスで見た地域の中のアートを活かしていくという、アートやアーティストのあり方でした。100人でパルルを運営する取り組みや、0円ショップの活動など、パルルという場を拠点として、さまざまな人が集いそこから活動が生まれ広がっています。(浦野)

パルル

 新栄2丁目にあるカフェ併設型のイベントスペースです。

 パルル(parlwr)は1980年に新栄画廊としてスタートしました。1991年にはカノーヴァン(canolfan)と改称し、新たにカフェが併設され、アート以外にも、音楽や映像、パフォーマンス、トークなどの発表の場として利用されるように。

 2006年にパルル(parlwr)と改称し、2012年の6月から2016年の3月31日まで、一人のオーナーが経営をするのではなく、「100人で運営する」を目標に、多くの人達との話し合いで運営をしていました。2016年に「100人運営」を終了した以降は、新しい形態を模索しつつ、空きスペースを貸し出したり、共同スペースを設置するなどゆるやかに取り組み方を見直していきました。現在のパルルでは、以前の運営形態が完全に引き継がれたわけではありませんが、ボランティアスタッフを含め、「誰かと一緒に」というところは以前の運営形態から受け継がれているものがあると新見さんは考えています。(浦野)


行動力の源は....

 たくさんのことをされている新見さん。たくさん経験を積んでいる中でSNSなど新しいことに取り組むモチベーション、行動の原動力を聞きました。  「SNSを使うことに対してモチベーションとかは思い浮かばないけど…。僕は新しいもの好きなので、最近だとチャットGPTとか、そういう新しいものが出てくるとやってみようってすぐ思うタチなんです。新しいもの好きで好奇心がすごくある…飽きやすい面もありますが(笑)そういうところにあるんじゃないかなと思いますね。」と、新しいものを取り入れることに躊躇がないことを話してくれました。  パルルでの活動については、「パルルなど新しい場所を始めること関しては、元々親戚が持っていて父親が使っていた場所を、使い方は当時と全然違いますけど、場所を引き継いで使っています。先に場所があったので、この場所使ってなんとかしよう、なんかしてみようって思ってこんな感じに。だから、元々あった場所なので、原動力というよりかは受け身な感じで、場所を手に入れてそこをなんとか使っていこうって思いが、こういうふうになってるんだと思います。」と言い、元々あった場所をなくすことなく形を変えて継続させていくことこそが原動力なのかもしれません。(春田)

 

コミュニティ、人との繋がりについて

新見さんは、人とのコミュニケーションや繋がりというものを大切にしています。小さい頃に投げかけられた方言がきっかけで言葉や人の繋がりに興味を持ち、コミュニケーションの中心にある言葉を使って人と関わる、「言葉を交わす」ということを「人との繋がり」として大切にするようにしていると言います。  「人との繋がり」に興味を持ったきっかけは、4歳で名古屋に引っ越してきた時のこと。外出の際に隣人から「じょうかった?(鍵かけた?)」と聞かれ、全く意味が分からず、教えてもらって初めて理解し、「言葉って面白いなぁ」と興味を持ちました。またその言葉による交流から「人との繋がり」にも興味が広がっていきました。  何かにつけ、誰かと一緒にやることが多く、パルルの運営も常に周囲の10人くらいの共同で行っていたそうです。2014年頃に運営の責任者を1人から100人に変えた際も、様々な人と関わりながら運営していく形は変えなかったと言います。  「100人による運営体系」を変えてみることにしたのが2016年のこと。運営が上手くいかなかったわけではなく、より良い形に変えていこうという目的による決断でした。それ以前の運営の楽しさを加味して、「誰でも入れる場所」というスタイルは変えませんでしたが、2019年に大病を患い、2020年には新型コロナウィルスの流行が影響し、運営は停滞。2016年から2020年は、活動をあまり行えなかった時期でした。  新見さんの大きな目標は、パルルを「常に誰でも入れる場所」にすること。ようやく、直近の1、2年で達成できてきたように感じる一方、地域に向けてはまだアプローチが必要だと考えています。  パルル・作業場・シェアハウスの三つで構成された「のわ」を舞台に、地域の人々とアートを軸にした交流をしたり、アーティストの活動を支援したり、提案していきたいと、今後の活動について語ってくれました。「パルルを中心に人が集まる場所になってきたので、地域社会ともっと関わった活動ができたら嬉しい、その中で、街中の至る所にアーティストがいる、そんな地域を広げていきたい」と教えてくれました。(田島)

※以下のテキストは文字起こししたものをベースに読みやすく編集を加えてあります。

 

【「人の仕事は全て機械に変わるけどアートだけは残る」(noteより)とありましたが、なぜそう思うのですか?】

「アトム計画」って僕が名付けている勝手な考えがあってですね。 (漫画『鉄腕アトム』で)描かれていた将来の像は、休みもなく働くようなものではなくて、人が人らしく生きるようなことだと思っています。漫画の世界だからそう描いたのではなくて、やっぱり人はそういうことを目指しているんじゃないかなと。それで、アーティストになるとか以前に今までやってきた仕事はやがて無くなる、無くなったほうがいいと思います。AIとか機械に代わってもいい仕事はどんどん代わっていけばいいと思っています。 でも人って何かをしたがると思いますから、その時に何をするのかなって思うと、広い意味で何かものを作ったりとか。それこそが人が人らしく働く最高のものだと思います。(青井)

 

【AIによるアートが最近話題に上がることが多いですがどう思っていますか?】

AIとアートがどうなるかっていうのは全然何も全くわからないです。

(最先端のテクノロジーとしてペンが生まれた時には)ペンを使うようになったりした訳だから、アートは常に最先端のテクノロジーを使う。だから、使って当たり前ですよね、そう思います。(青井)

 

【AIは新しい価値やモノを創造できるようになると思いますか?】

AIによって更に人間の可能性が引き出されて、もっと凄いものが生まれるようになるんじゃないかと思います。(青井)

 

【AIなどの新しい技術が出て、それが流行るとその技術は使うけれど、それを超えようと思う人が出てこなくなるのではないでしょうか?】

(新見さんと教員との間で「学習能力と情報処理では人間より優れているAIも、まだ“創作”はできない」という会話があった後)さっきの話で、AIは新しいものをつくり出すことはできないんじゃないかと言うのは僕もそう思っています。だからこそ、何が出てきてもそれを超えようとする人間が絶対いると思います。でも、AIを全部超えていこうと考える人ばかりじゃない。AIのものでもう満足っていう人が増えてきて、AIより凄いことをやろうっていう人がほんの一握りになっちゃうと怖いなとは思います。

でも僕は、人間のほうが欲が果てしないなと思うので、AIに与えられるだけでは満足しないという気はします。(青井)

 

【未来のアートの形はどうなってほしい?】

アートの形がどうなるかは作品を作ったりしないからわからないんですけど。今アーティストとして生活しようとしたら、作品が売れるとかっていうことが基本になると思うんですけど、その売られ方って古臭い部分が相当あって。AIとかネットを使って作品が売られることはあるんだけども、元々ある価値をネットに置き換えてやってるだけみたいな売り買いのされ方だから、もうちょっと違う価値が生まれるとそれに伴ってアートの形も変わっていくだろうし……。

(FacebookやX、Googleなどの)でかい企業を通さないとどこかに行けないっていうのは、本当のインターネットらしくないっていうか、21世紀、22世紀らしくないと思うから、作る側と手に入れたい側が個人間でやり取りできるようになっていくといいのかなという気がします。そのためには「アトム計画」みたいなことが実現して、直接お金のやり取りができるようになると、世界との、それこそ人と人のつながりが変わってくるので、それによってアートも変わっていくのかなって気がしてます。(片岡)

 

【新見さんの考える「自由」とはどういうものですか?】

流通の仕方とか、テクノロジーが進んでいるのに追いついてないなっていうところがあって。そういう点で不自由なのかなっていう気がしてますね。

昭和の時代っていうのはいろんな面で窮屈だったり、性差別とか、いろんな格差があった。けど、全部が行き渡ってない、ある意味管理されてないので、隙間を縫って勝手なことができた。今は便利なことと相まっているんだけど、すごく管理されていて、何をしてもばれちゃうっていうか。それはある意味、あらゆる人にどんな小さなことも届けられるってことでもあるけど、知られてしまうっていうことでもある。隙間があれば自由かっていうとそうでもないかもしれないですけど。今も隙間はあるんですけど、見えにくくなっていることがあるかなって思うんで、そういうところは不自由だなって思ってるところですね。(片岡)


 

さいごに....

リサーチを通して、「新見さんと語り合いたい!」という気持ちを大きくして行った学生たち。実際に新見さんのお話をお聞きして、アートが人々のつながりや地域の活動に深く関わっていくことの面白さや不思議さを感じることができました。「芸術と社会」という大きなテーマではありましたが、新見さんにフォーカスし、軸となったことで、具体的な関わり方や課題、展望などを見出せたのではないでしょうか。(松村)