【教員エッセイ】図形の話──正五角形と正十二面体/茂登山清文


芸術教養のマークを知っていますね。正五角形の頂点に,それぞれ五つのリテラシーを配置しています。

 

さて今回は,図形の話をしましょう。

 

古代ギリシアの哲学者,そして数学者でもあったピタゴラス,名前を聞いたことはあるでしょう。有名な,あの「ピタゴラスの定理」の人です。そのピタゴラスが率いた教団は,正五角形になみなみならぬ関心をいだいていたと言われます。そしてコンパスと定規だけで,それを描く方法を見つけました。さて,その魅力は何でしょうか?正五角形には,実は黄金比が隠されているのです。辺の長さと対角線の比がそうなんですね。教団の人たちは,胸に五角星の徽章をつけていたとの話も伝わっています。

 

正多角形は無限に存在します。でも立体となると,状況はまったく変わります。正多面体の数は有限なのです。そもそも正多面体って,何でしょう。定義は,1 全ての面が合同な正多角形からなる,2 どの頂点に集まる辺の数(=面の数)も等しい,3 凸多面体である,です。例えばみなさんの身近にあるサイコロは,正六面体です。ピタゴラス学派の人たちは,正多面体が,四,六,八,十二と二十の五つしかないことを証明しました。

 

後に「プラトンの立体」と呼ばれる,そのうち十二面体を除く四つの正多面体は,『ティマイオス』のなかで,順に「火」「土」「風」「水」の,世界を形作る四元素に対応させられました。ではひとつ余った正十二面体はというと・・,プラトンは,なんとそれを「宇宙」としました。後にケプラーは『宇宙の調和』に,正十二面体に太陽と月,星々を描きいれた宇宙の図を載せています。たかが図形のことなのですが,とても想像力をかきたてます。

 

芸術教養のマークでは,五つの辺を延長し,星をつくっています。おもしろいことに,五芒星と呼ばれるこの図形にも黄金比が隠されています。見つけてみてくださいね,ひとつではありませんよ。ところで,星の頂点が何を示しているのか,ですって?図のなかには答えはありません。あなたたち一人一人が,そして僕自身も何かを見つけ,そこに書きこんでいくのです。

 


デヴィッド・ボウイ,最後のアルバムとなった『ブラックスター(★)』。黒い星と,そこからさまざまに切り取られた星のかけらが並んでいます。デザイナーは,ジョナサン・バーンブルックでした。