芸術教養領域 リベラルアーツコースでの4年間の学びを、あなたはどんなふうに活かしますか?
近年、芸術大学を卒業後、一般企業などで活躍する人が増えてきました。そこでは情報や言語を使いこなし、多様な文化を理解する力、すなわち教養が求められます。
一方、芸術大学という空気の中で醸成される経験的な知、芸術全般に関する知識・デザイン力も、多くの職場で求められるようになっています。
その両方を幅広く学び、これまでにない複眼的な思考とコミュニケーション力を身につけた卒業生の活躍の場は、一般企業の総合職や、企画・広報担当、広告会社、IT関係、
そんな、芸術も含めた複合的な「教養」が社会でどう活きるかを、各界で活躍する方々に訊ねてみました。
元・株式会社ニチレイ代表取締役会長
浦野光人さん
1948年愛知県生まれ。横浜市立大学文理学部経済地理学科卒業後、日本冷蔵株式会社(現・ニチレイ)入社。誰も考えつかなかった倉庫の画期的な稼働率転換など、数々のイノベーションを行ってきた。代表取締役社長、代表取締役会長、相談役を歴任。他社の社外取締役、経済同友会幹事、文部科学省中央教育審議会の委員など、各分野で幅広く活躍。
インタビュアー
名古屋芸術大学芸術教養領域兼任教員
茶谷 薫
京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士後期課程中退。博士(理学)。人類学を専門にヒトの直立二足歩行進化研究のためサル観察を行ってきた。また現代社会における人間の行動や風俗の考現学、大学生における学修上の問題点等を研究中。
――教養はリベラルアーツとも言い、もともとアートを含むものです。リベラルアーツコースでは、芸術も含めて多様な分野を学生に学んでほしいと思っていますが、教養についてどのようにお考えですか。
教養とは自己の人格を形成し、磨きあげるもの。一生続く学びと言えるでしょう。人格とは真(知識)、善(道徳)、美(芸術)であり、三つの調和が大切です。知識が重視されがちですが、芸術的な感性がないと人の気持ちはわかりません。科学的な知識や哲学を基礎とした教養はもちろん、芸術を基礎とした教養があって然るべきです。
自分の人格を磨こうとしない人は、あらゆることが他律です。他律的に取り組むうちは学問も仕事も面白くありませんが、自律的であれば非常に面白いものになる。他律から自律へ、自己を成長させるためにも教養は必要です。
――仕事をしていく上で、なぜ教養は必要なのでしょうか。
実社会では答えのない課題にぶつかります。その際、考えをまとめるには、自分の引き出しだけでは限界がある。しかし、教養があれば本を読んだり人に聞いたりと、別の引き出しを探すことができ、思考の補助線を引くこともできます。直接的ではなくても補助線を引くことで、問題が解けることはあるわけです。それが教養の効果とも言えます。私自身も仕事を進める上で、さまざまな引き出しや試行錯誤しながら引いた補助線が役に立ちました。
――地理学や人類学などで行うフィールドワークは、一見、無駄なことがほとんどですが、それが答えに結びつく補助線になります。教養も同じということですね。
おっしゃる通りです。そういう意味で、直線的にしか物事を考えられない人には新しいことはできません。人間、全く新しいものを生み出すことは難しくとも、課題認識がしっかりしていれば既存のものを組み合わせることはできる。それが教養の力であり、教養があれば誰でもイノベーションは起こせるのです。
高齢社会や地球環境の問題は、一つの分野だけでは解けない課題です。これまでの縦割り組織の中では答えが出せず、外の引き出しを見つける必要があります。また、補助線を引ける教養ある人が意見をぶつけあわなければ、アイデアは出てきません。日本が今後も成長を目指すなら、新しい価値を創るイノベーションは不可欠で、教養はどんな仕事に就いても大事になると思います。
――企業はこれまで採用しなかったような人を採用すべき、ともおっしゃっていますね。
あらゆる学問を総動員しなければ課題が解決しない時代、多様な人材がいた方がいいのではないでしょうか。例えば、リベラルアーツコースの卒業生を採用すると、ダイバーシティが進むと思うんです。昨今、物事を一瞬で理解させるヴィジュアルの力が注目されていますし、流す音楽によって作業効率が変わる製造現場や、視覚障害のある従業員にとってもサウンドは非常に大事です。リベラルアーツコースの学生が英語・日本語・情報に加え、サウンドとヴィジュアルのリテラシーを習得すれば、一般的な大学を出た企業人が持っていない技量になる。他にない強みを持った人材輩出に、とても期待しています。
株式会社CBCクリエイション
営業戦略センター長
山本昌延さん
名古屋芸術大学美術学部卒業。学生時代には教員の部屋に入り浸り、多くのことを語り合ったという。
当社はテレビ番組の制作や企業の映像制作など、さまざま業務を行っています。こうした仕事は一人でできるものではなく、営業、演出、技術など各セクションの協力が不可欠です。意志を統一するためには全員で話し合いを重ねる必要があり、そこでは人の話を聴く、自分の言葉で話すといった力も求められます。これも一つの教養と言え、私自身は名古屋芸術大学で制作に没頭するだけでなく、多くの人と接して多様な経験を積みながら、聴く力や話す力を鍛えられたことが役に立ったと思っています。例えば、クオリティだけを追い求めても、コミュニケーションが取れていなければ、顧客の要望とは違うものができあがってしまう。後輩の皆さん、人の話を聴き、理解し、その上で自分の考えを発信していく経験を大学時代に積んでください。それが、仕事を成功へ導く力につながっていくと思います。
ソニーマーケティング株式会社
ネットワークサービス部 企画推進課 統括課長
内藤友宏さん
名古屋大学の学生時代に文理にまたがる知識を習得。事業のアイデアを得るため、今も美術展などに足を運ぶ。
芸術教養領域の茂登山清文先生が名古屋大学にいらした頃、情報技術とともにアートやデザインの役割を学び、世の中の新しい見方を教わりました。現在、ソニーのハードウェアとIT技術を使って新規事業を開発する仕事に携わっていますが、国内外のデザイナーやプログラマー、マーケッターとの打ち合わせの際に役立っているのが、大学時代に幅広い分野を学んで培った教養です。私自身はデザインをするわけでも、プログラムを組むわけでもありませんが、チーム内で各分野の橋渡しをする「通訳」の役割を担っています。企画全体を俯瞰し方向性を判断する必要がある場合も、教養がその判断の支えとなっています。また、アートやサウンドの世界に国境はありません。いずれ英語でのコミュニケーションが必要になるので、ぜひ大学時代に英語のスキルを身につけておくことをおすすめします。
中日信用金庫
理事 総務部 部長
冨田 勝さん(写真上)
教養とは、一生かけて身につけていくもの。あらゆる分野につながり、物事を判断する力になると語る。
中日信用金庫
総務部 部長代理
高御堂英雄さん(写真下)
仕事には、教養に根ざした相手への配慮が必要という。お客様とは音楽談義で盛り上がることも。
信用金庫のお客様は、業種も年齢も趣味も実にさまざま。そうした方々とお話をするには、金融の知識だけでなく、芸術から世界情勢まで幅広い知識が求められます。お客様の業種の特徴を学んでその知識を別の場面で活かしたり、お客様のお話から次に何が必要かを察知して提案する力も必要になり、その根底にはやはり教養が欠かせません。そういう意味ではリベラルアーツコースで学ぶ教養を、いろいろな場面で活かせる仕事と言えるでしょうね。特に、最近は企業の経営分析だけでなく、事業実績のない方を支援する仕事が増えてきました。デザインやIT系の業務で起業される方も多く、そうしたお客様の可能性を見出し支援していくには、アートに関する知識や感性が必要です。現在も当庫にはさまざまな学部出身の職員がいますが、さらに多様性を広げていかなければならないと感じています。芸術大学ならではの教養を身につけた人材なら、社会や企業と芸術を結ぶ媒介役として活躍ができるはずです。
株式会社アライブ
代表取締役
三井博美さん
子ども英語教室や翻訳などを手掛ける会社を経営。法学研究科出身だが、すべての学びが今につながると語る。
人の価値を創るためのベースとなり、人と人とが理解し合う上で必要な知識。それが教養だと思います。仕事の中身を深めていけるのも、人と関わって仕事の幅を広げていけるのも教養があればこそ。深みと広さの両面あるのが教養の本質であり、どんな仕事にも不可欠のものではないでしょうか。私は英語教室を運営していますが、教育の内容は先生の教養によって深くなりますし、翻訳一つをとっても教養があれば相手の立場から考えて訳す(賛否両論はありますが)こともできます。教養によって差別化が図れ、新しい価値が生み出せるのです。今、マーケティングやブランディングにおいてもアートを解する人が必要となり、企業とアートを近づけることで新たな仕事が生まれる可能性もあります。リベラルアーツコースには教養をベースに、新しい発想ができる人材の輩出を期待したいですね。
名古屋芸術大学 芸術教養領域 リベラルアーツコース
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愛知県北名古屋市熊之庄古井281
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