2022年度卒業生インタビュー(前編)ーー一つの繋がりをきっかけに、どんどん繋がりができていく

 今回は、2022年度卒業生の大石茉幸(おおいし・まゆき、写真右)さんと田坂美夢(たさか・みゆ、写真左)さんにお話を伺います。お二人は学生生活の中で、外部イベントやプロジェクトへの参加、展示の企画などを積極的に行ってきました。ここでは、二人で企画・運営をした学内展示『キャンパスナップ』をはじめ、外部での活動、4年間の学生生活の振り返り、後輩となる学生や今後芸術教養領域を志望する方々に向けてのメッセージなどについてお話し頂こうと思います。(※前後編に分けて掲載しています。この前編では『キャンパスナップ』や学外の活動についての話題をお送りします。学外活動のお話の続き、4年間の学生生活のお話、芸術教養を志望する方へのメッセージについては後編をご覧ください。)聞き手・鈴木まな(領域助手)


ーーーーーまずはお二人で企画・運営した『キャンパスナップ』について聞かせてください。

 

大石(以下、O)  元々、音楽領域や人間発達学部(現:教育学部)の東キャンパスの学生、つまり芸術学部の芸術教養領域以外の学生がギャラリーに来る機会を作りたいねって3年の頭くらいからずっと2人で話していたんです。で、その時に、媒介じゃないけど、そういうのになるのがやっぱ写真なのかなと。絵は難しい。でも写真に撮ったりっていうのは、記録の意味もあるかもしれないけど、「見る」とか「撮る」っていうのはアートなのかなと考えました。写真演習の授業も含めて思ったことを(2人で)ずっと話していて、この2つを組み合わせたら東キャンパスの学生ももっと来てくれるんじゃないかなって思い計画をしました。実際、大成功だったと実感では思っているし、展示してくれた人も喜んでくれて、自分の中では想像以上の結果でした。楽しかったし思い出にもなったと純粋に思っています。 

 

田坂(以下、T)  まず、自分で写真を趣味としてやっている東キャンパスの学生に声を掛けて、その人たちに展示してもらおう、ってことで、今回は私の知り合いが多かったんですけど、音楽領域の学生さんに声を掛けました。すごくいい写真を撮ってる子が多くて。(作品を)出してもらって、展示方法とかは分からないっていう子がほとんどだったので、私たちのほうでお手伝いさせてもらいました。これがいいんじゃない、みたいな感じで提案して実現していきました。あとは、学内に「写ルンです」を3台設置して、自由に撮ってもらうっていう企画をやりました。その写真を現像して、中から選別して、壁にブワーって貼る形で。「もしかしたら自分の撮った写真があるかもしれない」っていうワクワク感とか、半分宣伝っていうのも含めてその企画もやって。で、蓋を開けてみると、全然自分たちの知らない人たちがギャルピースで自撮りしてたりとかして(笑)。多分そういう人たちは、実際に展示を見にきてくれたのかなって思っています。宣伝効果としてもそういう企画は面白いなあっていうのを知れた瞬間だったのと、東キャンパスの学生に足を運んでもらおうっていう目的があったって話をしたと思うんですけど、「自分が写った写真や自分が撮った写真があるかもしれない」っていうのが観に来るきっかけになったかなっていうのが感じられたので、特にこの「写ルンです」の企画はやって良かったなと思っています。


ーーーーー大変だったり楽しかったりしたことはどんなことでしたか?

 

O 本格的に(企画を)詰めて行ったのは4年からだったので、就活との両立が大変でした。あと、やっぱり美夢ちゃんが展示してくれる人を集めてくれていたから、自分は「どうなるんだろう」って想像があんまりつかなかったし、参加型だから、どれだけ人が集まるのかっていうのはずっと不安でした。空間が寂しかったらどうしようと。自分は「レビュー」(※学生の授業成果を振り返るレビュー展のこと)みたいな展示よりかは、立体的な、空間を意識した感じにしたいとか、窓ガラスからみてどう見えるかとか、見やすいものにしたいから、写真がどういう風に見えるか・見せたいかっていうのを考えました。写真が集まるまではずっと不安な気持ちがありましたね。

 

ーーーーー材料は他の人が集めてくれるものだから…

 

O そう。自分も作品として出したは出したんですけど、それがメインの役割だとは思ってなかったから、どうなるんだろうと。そこは苦労した点ですかね。でも、楽しかった。いろんな人が集まってても、結構まとまった感じ。でも、切り取る瞬間というか場面は、同じ大学でも写し方とかこだわりで全然違うっていう話はすごく出ていたし、出展してくれた子が、「普通に学校内撮ってただけなんだけどな」「でもすごく違うよね」「ここは雰囲気似てるけど、全然別物だよね」というのをすごく話してたので。やっぱ私たちが見てもらいたかった東キャンパスの魅力、「こういうところにいるんだよ」っていうのをすごく出展者さんが見せてくれたっていうのはあったかな。それが集まってより楽しいというのがありました。

 

ーーーーーなるほど。個々の作品だけでなく、集まった写真たちのそれぞれの視点の違いも見どころの一つだったということですね。では田坂さんはいかがでしたか。

 

T 同じく就職活動やりながらっていうのがまず大変でした。また、私の場合は前期の時に同じギャラリーを使って『まぜこみわかめ』という企画をやっていたのですが、音楽(領域)の知り合いを見ていると、ギャラリーの存在を意識し始めた人が増えているような気がしていて、そこから一歩進むことがこの『キャンパスナップ』でできたのかなと思っています。”実際に””足を運んで””作品をちゃんと見る”っていう時間を作ることができたのが、やれたことかなと。そういう意味でも、私個人としては前期と後期の2回で東キャンパスのギャラリーを使って企画ができたというのはすごく自信につながったというか、やれて良かったなあというふうに実感しています。作品に関しては、私も今回出展したんですけど、今回のために撮った写真っていうのは全然なくて。過去に撮り溜めたものから学校を撮ったものってどれだろうっていちから漁って(笑)。しかも搬入の前日に(笑)。それでも結構見応えのある写真を引っ張ってくることができて、そういうところでも自分はこの大学4年間、コロナ禍とかはありつつも、学校内でちゃんと生活してたんだなっていう実感が湧きました。また、日々写真撮っていくことで、今パッと振り返った時に、「ああ私こんだけ頑張ってきたんだな」「こんなこともあったな」って、日常生活を振り返ることができたのも写真の魅力だなっていうことに気付けました。

 

ーーーーー2人は外部でのワークショップやイベントの手伝いなどにも積極的だった印象がありますが、その辺りのお話も聞かせてください。

 

O 私は「地域文化論」の授業を担当してくださっている先生が名古屋港の方にいて、その街づくりを行っているということを聞いていて、授業でも取り扱っていたので、それをきっかけに、「私ってもしかしてこういうことやりたいんじゃないかなあ」って思いはじめたり、自分の実家が静岡なんですけど、「静岡でもこういうことやりたいなあって思ってたな」っていう気持ちを思い出したりして。何も考えずに「遊びに行っていいですか」みたいな感じで(先生に)言って、「いいよ!」って言ってくださったので。でも何したらいいか分からないっていう状態ではあったので、何か見つけたいっていうか行動したいというか。コロナも少し落ち着いて何をしたらいいんだろうって模索してた時期でした。

 

ーーーーーそれは3年生の時ですか?

 

O そうですね、3年生の時に行きました。で、そこで出会ったのが『みなと土曜市』っていう土曜市なんですけど。最初ボランティアメンバーは私だけで、私自身もボランティアしたはいいものの、何をそこで見出せばいいのか、とか、何をしたらいいのか、とか。何がここで持ち帰りたいものなのかっていうのをすごく考えていて、でも、来てくれる人のためにどういうふうにしてあげるべきなのか、ボランティアとして何が必要なのかっていうのも考えていたし…。でも自分の中で結局何が見つかったかなっていうと、「人とコミュニケーションをとること」かなというふうに思っていて。人と話すのって難しいなって、コロナを経て思ってはいたんですけど。でもやっぱこういう場所で、話すことを求めに来ている人だっているし、私もそういう人だと思うし。でもそういう人ってきっとその場所の魅力を作るひとつだと思うし、その土地だからっていうのもあるとは思うんですけど。そういう一員になりたいなって思ったし、そういう場所を作りたいなっていう思いで『みなと土曜市』には参加していました。

 もうひとつあるんですけど、「アートマネジメントアカデミー」っていう芸術祭主催のひとつの、育成みたいなのを行っている場所があるんですけど、そこに3年の時に挑戦しました。まだ自分の実力が足りなかったり、先輩たちに劣ってしまっている部分が多くて(参加できず)、あらためて4年生でお話を頂いたので、その「アートマネジメントアカデミー」に参加しました。主に人材育成という訳ではないですけど、アートのマネジメントをしていく人を育成するという名目だったので、展示会とか芸術祭にも今年行ったし、展示してくれていた人にインタビューをして、自分が美術に携わる人としてどういうことをやっていくのかとか、そういうことをすごく現実的に見れたな、と思いました。職業としてマネジメントしていくってこういうことなんだなっていうのを感じながら活動していました。それはどれも闇雲に走っていた時で、何でも経験にしたかったって思っていたので、いろんな経験、全部同じようなものを求めていたってわけじゃないから、違う視点のものをたくさん集められたのかなって思いますね。

ーーーーー大石さんから在学生へのアドバイスがあればお願いします。

 

O 何か自分の中で大切にしているものって私はアイデンティティだと思っていて、それを活力にして一歩踏み出す気持ちがすごく大事だと思っています。何が糧になったかって言われると難しいし、コロナの反動っていうのもあったと思うし。でもそれ以上に私は何かをしていきたい、ここの芸教にいても、やっぱ足りないというか、もっと外交的にならなきゃいけないっていうのはすごく感じていて。大学ってそういう意味でサポートしてくれる場だってずっと思っていたんですけど、全然違っていて。やっぱ自分でやるしかないっていうのが…全然悪い意味とかじゃなくて(笑)。自分がどうなりたいかっていう像は、はっきりしていなくてもはっきりさせるための一歩というか、踏んでいかなきゃいけないなっていうのは思ったし、それが何につながる訳でなくても思い出になったらいいと思うし。でも私はそれをきっかけに地域と関わっていきたいなっていうのを思うことにはなった。でもずっとアートを続けていきたいなっていうのは思っているので、何か自分の中で本腰入れるっていうのが一番大事なのかなって。やっぱり気持ちですね。

 

ーーーーー田坂さんの学外での活動はいかがでしたか?

 

T 学校外では一番大きかったのは「アートな工場祭」っていうので、これはエス・エヌ・テーさん(株式会社エス・エヌ・テー)っていう古紙の回収とリサイクル事業を行っている業者さんにインターン生として2回参加しました。アップサイクルといって、素材の特性を活かして新しいものに作り替えるっていう考え方があるんですけど、工場内を使ってアップサイクルってものを知ってもらうイベントをやろうということで、3ヶ月間インターン生として活動して、その集大成としてイベントを開催しました。2年間やって1回目と2回目で全然内容も違いましたね。1年目はアップサイクルや古紙を使った学生の作品を展示するイベント、2年目は紙の販売なども行うマルシェイベントをしました。マルシェの中でも、ちょっとしたパフォーマンスとかがあってもいいのかなーと思って私の友人に声を掛けて演奏や作品展示をお願いしました。とにかく、さっき大石さんも言ってたんですけど、人とのつながりって本当に大事だなって思っていて、他の企業の方との交流とか、「エス・エヌ・テーがちょっと面白いことやってるから遊びに行ってもいいか?」みたいな感じでインターン生がミーティングやってる時に全然知らない方が見に来てくださったりもして。

T そんなところからいろんな交流が広がっていって、エス・エヌ・テーの活動をきっかけに、FABカフェのコミュニティーに参加させてもらったりもしました。そういう中で私の考えていることや、卒論論文に書いた内容も面白いって言ってくださる方に出会えたり、イベントやってみたいから出てくれそうな学生さんいたら教えて欲しいと声を掛けてくださる方がいたりとか、一つの繋がりをきっかけにどんどん繋がりができていくっていうのをこの2年間のインターンで実感しましたね。特に私は、自分で繋がりを広げていくためにはやっぱりちゃんと自分で発信しなきゃいけないんだなっていうのを感じて、facebook も開設したりとか、instagram も大人の人と繋がってもいいように整えたりとかもしました。「自分はこういうことができます」「こういうことがやりたいって考えてます」って発信していくことって、とにかく大事なんだなあっていうのは、外部の活動を通じて考えたことですね。

 

ーーーーー2人は単発のイベントに参加するというよりは、一定期間のプロジェクトに関わったという感じでしょうか。

 

O 結局、経験って、一回でもいいと思うんですけど、それだけじゃ物足りないっていう気持ちがどんどん強くなってきて、写真展(『キャンパスナップ』)もやったり『まぜこみ(わかめ)』もっていうふうにやってきたと思うから、その貪欲さじゃないけど、自分の中に残っているんだなあっていうのは実感したし、だからこそあれしたいこれしたいっていうのが一年とか続いていったのかなあっていう感じがしましたね。


■キャンパスナップ

 会期:2022年10月21日〜26日

 会場:名古屋芸術大学東キャンパス Art & Design Center East

 概要:東キャンパス学生による、東キャンパスでの写真を展示。限られた空間で撮影された作品を並べることで、個々の視点の違いや日常の断片それ自体のもつ魅力を提示する。「写ルンです」の設置による参加型の展示も行った。

 

■まぜこみわかめ

 会期:2022年6月24日〜7月6日

 会場:名古屋芸術大学東キャンパス Art & Design Center East

 概要:音楽からインスピレーションを受けて制作された作品を展示。また平日のランチタイムコンサートやサタデーコンサートで生演奏を行い、様々な角度から音楽に親しむ契機を用意した。

 

《みなと土曜市》

公式HP:https://www.minnatomachi.jp/event/kurasu/618

《アートマネジメントアカデミー2022》

公式HP:https://aichitriennale.jp/ala/project/2022/p-005181.html

《株式会社エス・エヌ・テー》

公式HP:http://www.s-n-t.co.jp/